環式エーテル計算で正確なのは何なの?



 だんだん、計算の正確さには自信がなくなってきた。何を使って計算すればいいのであろう。
そこで、昔合成したチルシフェロールの立体配座について検証してみた。昔ネタが多くなってしまったが、決して昔を懐かしんでいるわけではなくて、これしか配座が境界の実測データを持ち合わせていないからです。
このポリエーテルの中央部には歪んだボート型をしたテトラヒドロピラン環がある。これの配座について、どの計算方法が適当か評価してみた。
 チルシフェロールの合成の中で最も苦しんだところだが、苦しんだ分、複数のモデルを合成していて、それらの配座はNMRなどで確かめているので計算方法の評価には適しているといえよう。
まずMMFFで配座解析を行い、得られた全ての配座について各計算方法で再最適化して舟型配座といす型配座とのエネルギーを比較した。HF法では計算に時間がかかるのでその中で特徴的な配座を選んで最適化した。
本当に今のパソコンはすごい!!この表は週末のイタズラで完成してしまった。
MM2はChem3Dに配座を手作業で移して再最適化した。計算は一瞬だが、移すのには苦労した。

 青い文字のところはChair-Boat型が安定であると予測したところ。赤い文字のところがChair-Chair型が安定であると予測したところである。灰色で塗ったところは、計算結果とNMRでの実測と一致しないところである。
 こうやって見てみるといろいろなことがわかってくる。MM2はすべてChai-Boatが安定ということになる。MM2が最もよく知られた分子力場であるが、環式エーテルの計算には向かないと考えたほうが適当かもしれない。逆にPM3では全てChai-Chai型が安定ということになる。PM3も半経験分子軌道法のハミルトニアンとしては一番新しく、燃焼熱の計算では信頼できるといわれているが、今回の計算では、AM1よりはるかに成績が悪い。有名な方法だからといって盲目的に使ったら大変なことだという例であろう。MNDOで計算した場合、環のフリップにかかわるエネルギー障壁が全く検地できないのかChair-Chair型で計算を始めても、結果はChair-Boat型になってしまうものもあった。
 実測に矛盾しない結果を与えたのはAM1とHF631G*ということになる。
 教科書によれば密度汎関数法の方がエーテル結合の長さを正確に再現するらしいが、パソコンではかなり苦しい計算である。
HF631G*ではこのくらいの分子でも1配座を構造最適化するのに3時間もかかることをかんがえると、パソコンを使っている限り現実的とはいえない。
総合的には半経験分子軌道AM1の優勝。ということになる。
このくらいの分子だとAM1での直接の配座解析も十分現実的である。

ただ環式化合物の場合、回転させる結合(原子)を60度刻みくらいにしないと、大事な配座をもらしてしまうことがあるみたいだ。

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